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ちょっと体がギブアップ


消えたお墓

 毎日散歩に行く町内の山に、津波で死んだ犬のリコとマメコ、猫のクララを埋めてあります。あの当時は市のクリーンセンターも、ペット葬儀社も営業してはいなかったから、他に方法はありませんでした。

 今年の夏、早朝に散歩に行くと、その近くでせっせと雑草を取り、石を避けてきれいに並べているオジサンに出会いました。「ご苦労様です」 と声をかけると、「町内で津波で亡くなった11名の方々の鎮魂の植樹もしたのだから、もっと人に来てもらえるように、ここをきれいにするのだ」とおっしゃ いました。有り難くて、時々栄養ドリンクを届けて応援しました。

 オジサンが整地していたのは、私が犬を連れて散歩する道から、板を渡して沢を越えた道路や家々が見下ろせる山の先っぽの野原です。

ところが、先週散歩に行くと、散歩道に刈り取られた雑草と掬い取られた土砂が積み上げられ、山の斜面の下に埋葬したリコ達のお墓がすっか り隠れて、場所がどこかもわからなくなっていました。オジサンは「もうすぐ神戸から高校生ボランティアが来て作業を手伝ってくれるから、転んでケガしたり しないように、通り道を整備しておくんだ」と上機嫌でした。犬と猫のお墓があったことを伝えると、強い口調で「震災被害で亡くなった人間のための場所なの だから、掘り返して持って行ってもらわなければならない」と言いました。

 うちで埋めた後で、隣に同様に埋めた方もいました。私が一番落胆するのは、人間には良い人が、動物に対しては一線を引いて、人間だけが尊 い存在なのだと強調する時です。あれもできない、これも無理な時に、せめてしてあげられることとして、毎日散歩に来ていた山に埋葬したのです。遺体は1年 半を経て、ミイラ化しているのか、白骨化しているのか…変わり果てた姿になっているでしょう。人間の場所だから、掘り起こして他所に運べと主張する人達が しているボランティア活動は、命に順番を付けて、ペットを助けてやれなかった人間の後悔を再びえぐると感じました。

 震災の犠牲になったのは人間だけではないことに気づいて欲しいから、私はオジサンに対して、これまでと変わりなく接することに努めています。お墓は、隣の猫の分も併せて、高橋くんが探り当て再興できました。

甦った子猫たち

 前回の活動報告に登場した子猫たち…、見違えるように可愛くなりました。野生動物に頭を咬まれて、瀕死の重症を負った野良猫の子猫は、その名も 『かしら』と命名され、“猫の頭に立つように”強く賢く成長しています。不妊予防センターが間借りしているクリニックの看護師さん宅の飼い猫になったか ら、たまに同伴出勤して来て、おとなしくお姉ちゃんの仕事ぶりを見守っています。

 最初皮膚が被さって目の在りかが分からなかった“貧乏ニャンコ”の『ビンちゃん』も、カイセンの治療が進むにつれて、とっても大きな目を していたことがわかりました。こちらはお利口さんではありませんが、食い意地が張ったいたずら坊主です。とっても元気で甘えん坊ですが、気の毒なことにエ イズキャリアでした。

 しかし、エイズを持っているから何が変わるということはありません。この子の生命力の強さには、拍手喝采です。あれほどの重症を負いながら甦ったカシラとビンを見ていると、その一方で、どれだけの子猫が人知れず闇に消されたのだろうと感じました。

 今年の夏も、山ほど捨て猫と野良猫の相談が来ました。その中で助けることができたのは、相談者に、自分にできることはするという意思と、 命を助けたいという思いやりがあったかどうかだと思います。ボランティアにできるのは手助けなのだから、こちらも協力しやすいところから手を貸していくこ とになるからです。

 ビンちゃんの相談者は、腑抜けで何も考えようとしないお婆さんでした。話にならない相手の時は、話に聞いた猫を、今、自分がたまたま行き 逢った猫だと思って、アニマルグラブの活動とは別に、一個人として乗り出す以外に救う手だてはありません。自宅に溢れるほど猫を抱えた個人ですから、次々 に…というわけにはいきません。

 ところで、ビンは、今は2段ゲージに入れられていますが、我が家のエイズキャリアはこれで10匹。震災前は、プレハブ1つがエイズの子の部屋でしたが、津波被害にあい、とりあえず自宅二階の4つの猫部屋に分散して、そのままです。

狭いゲージの中をボールを追いかけてくるくる回っているビンを自由に走り回らせてやるにも、何としても部屋が欲しいです。

 近くに土地を買うことを夢見ましたが叶わず、とりあえず敷地内の駐車スペースにプレハブを建てることにしました。しかし、被災地では建築 関連の業者さんはすごく混んでて、『不妊予防センター』だったプレハブを二階建てにして、さらにもう一部屋建てるという過程の、一つ一つの工程に大分時間 がかかっています。

頭の毛も生え揃い、すっかりハンサムになった『かしら』
大きな瞳の可愛い顔が出てきて、見違える『ビン』ちゃん。

まさかの“病床の日々”

 ここまで書いたところで、10日近く止まっていました。急に涼しくなったあたりから、どうしようもなく疲れたり、すぐに眠くなったりしていたので すが…4、5年ぶりに風邪で熱出して1週間、悪寒、筋肉痛、咳、鼻づまり、胃腸障害…とフルコースを経験しました。風邪がこんなに長引いたのは初めてで す。寝れる場所を求めて、寝たり起きたり…やっとやっと毎日の生活を続けてきました。

 猫5匹のゲージに囲まれた床に、布団1枚ようやく敷いて眠る生活ももう1年半…(その前の1ヵ月は、猫12匹と3畳程の納戸生 活)。今回、傍らのゲージでウンコされても、体が動かず取れなかった情けなさは、当分忘れられないと思います。自分の部屋を取り戻すためにも、早くプレハ ブが欲しいです。

難解な課題

 体が疲れるのはいつものことで、どこでもぐっすり眠れる私は“早寝早起き”の模範生みたいでした。調子を崩したのは、自分が備えている常識では理解できない事態が重なったからかもしれません。

 不妊予防センターでは、震災後は、料金を割引したり無料にしたりして実施するケースが増えました。「思い切って餌を与えていた野良猫全部 に手術をして、本当に良かった」という感謝も何度もいただきましたが、一方、自分では絶対に手術しなかった人達の場合は、思いもよらぬ経過をたどることも あります。  考えなしに野良猫に餌を与えるのは、男性のことが多いです。

 近所の人達が「野良猫のフン害や発情期の声が迷惑だから、餌をやってる人に助言してくれないか」と言って電話をよこしたケースは、すでに 20匹ほどに増えていました。餌を与えていた50代の男性は、魚関係の仕事をしていて、余った魚をばら蒔いていたようです。近所の人の話では、とても猫好 きで可愛がっているし、忙しく仕事していて独身なのだから、お金に余裕もあるだろうとのことでしたから、数が多い分助成するにしても、本人にも費用を負担 してもらうことにしました。

 年齢も既往症もわからない野良猫を捕獲して麻酔をかけるわけですから、不妊予防センターでは、全頭に内臓機能の血液検査を実施していま す。この際に、猫エイズと白血病の検査もして、6種混合ワクチンまでします。もちろん抜糸しなくていいように縫いますが、化膿止めの抗生物質を飲ませるこ とが難しい場合は、2週間持続する注射もしてから帰します。ここまでやって、本人にはメスで1匹10000円負担してもらうことにしました。

 数日間家に置いて様子を見てくれると言ったので、トイレも入る大きさのゲージを用意して、手術後の2匹を移して、迎えを待ちました。男性 が迎えに来て、私もゲージを1つ持って駐車場へ行くと、びっくり仰天しました。彼は魚を入れる保冷車で迎えに来ていたのです。驚く私に、「スイッチ切って 来たから、大丈夫だ~」と言いましたが、開けた途端に冷蔵庫のような冷気が出てきました。

 「ダメだよ。麻酔かけてお腹切った体だよ。私の車で送りますから」と言って、イオンモールの駐車場の中を走って、自分の軽ワゴン車に乗って、保冷車が停めてあったところまで戻る寸前、保冷車が走り出したのです。

 冷蔵庫のような車に入れられた手術後間もない猫たちのことが心配で心配で…戻って来て欲しくて電話しましたが、出ません。片付けもそこそこに後を追いました。

 彼の家の前の駐車場に保冷車は停められていましたが、家は鍵が閉まって真っ暗でした。猫のゲージが見えないのは家の中なのだろう、と思 い、死んだりしてはいないのだと自分を慰めても、やりきれません。相手をもっとよく見て、用心して、手を打つべきだったと胸焼けのように後悔が込み上げま した。

 後日、猫達の無事は確認できましたが、次の予約はすっぽかされました。電話して「野良猫が増えたら、困るでしょう?」と私が言っても、「オレは困んないよ」とケロっとしていました。近所の人には、「10000円は高過ぎる」と言っていたそうです。

 もう一件は、生活保護で暮らしているオジサンのケースです。動物好きの一人暮しで、いつも知らないうちに飼い猫が増えています。最近、ま た餌を与えている野良猫がいて、かなりお腹が大きいとのこと。例の如く、無料で手術をして欲しいのがわかりましたが、外で子供を産むより、身軽になってア パートの中に入れてもらえた方が猫のためだと思い、捕獲器を貸しました。

 捕らえられて来た猫のお腹は予想以上に大きく、おとなしい子でした。手術が終わって、ゲージに入れて届け、翌朝も電話で様子を聞くと「元 気、元気」という返事でした。ところが、その翌日「猫が冷たくなってきた」との電話がかかって来たのです。石巻にいなかった私に代わって、まゆみさんが急 行してクリニックに運んでくれましたが、間に合いませんでした。

 捕まえて、子供を堕ろし、母親まで死なせたこの一件は、私には最悪のダメージでした。クリニックに送る道すがら、まゆみさんが尋ねると、 猫は昨日から「元気、元気」なんかではなかったようです。お金も出してもらっているから、つい調子の良い返事をしてしまうのかもしれません。結論は「手術 しなければよかった」で、案外ケロっとしているオジサンを見ていると、「猫や犬が好き、可愛い」という感情は千差万別で、付随する注意力や判断力、決断力 や行動力も様々であることを感じました。

不妊予防センターの再建

 いつまでもショッピングセンターのクリニックに間借りしているわけにもいかないし、震災後、助けを必要としている動物と関わる人々が増えたことは 現実です。しかし、社会のニーズと、不幸になる命を生ませないことを実践していくためには、今紹介したレベルの人達のしそうなことまでをカバーしていける か、という命がすり減りそうな難題が付いて回ります。

 このことを具体的に考えるようになったのは、アニマルグラブに寄せられたカンパの使い方を真剣に考えたからです。

 アニマルクラブでは、赤字収支で運営してきた十数年前から、行き掛かり上、犬や猫を引き取ることになった方々に対して、治療費や不妊手術 代や犬舎、ケージなどに助成金を出してきました。これは、私自身が若い頃、行き逢った犬や猫を助けようとした時に、お財布からお金を出して「これも使っ て」と寄付してくれたオバチャン達に何度も助けられた経験からです。

 「家に連れて帰れば家族から文句を言われるだろう、先住の子の反応は…」と不安でいっぱいの時、「助けてあげて」「救うべきだよ」という掛け声に留まらす、助けるための資金をいただいたことは、何よりの励みになりました。

 そうしたお金は善意と応援から出たもので、アニマルクラブが支給する側になっても、その都度「できるところまで…」で了解してもらっている認識でいました。

 今年の夏、十数年前に保護していただいた犬が寝たきりとなって、医療費が大変なので支払って欲しいという要請が来ました。野良犬を救ってもらったのだし…できるだけ安らかな最期の時に協力しようと、了解すると、これまでの費用まで請求されて、びっくりしました。

 また、震災後に、保護した犬に難病があったが、自分は母子家庭で職場も流され、治療費が払えないと相談されました。24年3月までの約束 で全額助成しましたが、まだ仕事してないと言われたので、4月からは半額だけの助成とさせて欲しいと言うと、「多くの人から寄付を集めているNPOなんだ から、必要としているところにお金を回すのは当然」と反論されました。実は母子家庭ではないこともわかり、半年分(半額分の1年分)支払ったところで助成 はストップしています。 自分のことしか考えられない人との、金銭の小競り合いに巻き込まれないためにも、“社会とすべての動物を対象とした寄付金の使い 道”を実行していかなければならないと考えるようになりました。

夢を叶える方法を…

 前途多難ではありますが、“トラブルからの模索”はよくある行動のパターンでもあるので、体さえ元気になればまた頑張れると思います。自分の体調が悪い時のことは、手術を受けたり病気の猫や犬の看護の時に生かしたいと思います。

 そして、すっかりお待たせしてしまっている『五井美沙作品集』もようやくできてきたと思ったら、校正時に差し替えた原稿が前のままになっ ていたミスが見つかり、回収してその1ページを剥がして貼り替えるという話になりました。でも、それに乗じて、発注する前に1冊作ってもらった試作本のよ うには仕上がらなかった点を談判して、編集から印刷会社さんにお任せして、最もきれいに五井さんの絵を写した作品集を、実費以下の負担金で印刷し直してい ただくことに漕ぎ着けました。印刷会社の尽力のお陰です。どうか、10月半ばまでお待ちください。  なお、この作品集は、アニマルクラブにカンパやフードなどを送ってくださったすべての方々に贈呈させていただきますので、匿名や名前だけで、住所がな かった方はお知らせください。

 最後になりましたが、8月26日に多賀城市文化センターで開催された『犬と猫と人間と2~動物たちの大震災』の先行試写会に来てくださっ た皆さん、ありがとうございました。次は、1月13日、東京で上映会です。場所は表参道の東京ウィメンズプラザで、11時からと14時からの二回です。多賀城での試写会は、200人以上の人々にお出でいただき、和気あいあいのとても優しい雰囲気の中で開催する事ができました。若い宍戸監督への暖かい 応援をたくさんいただきました。この時に書いてもらった丁寧な感想は、今後の映画作りに大いに生かされるようです。宍戸さんは新たな取材と編集に忙しくし ていますが、一方では取材してもらったのに、出番のない動物と飼い主も出てきました。試写会の後、「お友達が出ると楽しみに来たのにがっかりした」という 声を聞きました。私も、自分が紹介して取材してもらった方々やアニマルクラブのメンバーや動物達に出て欲しいし、ふさわしいと感じた音楽も使って欲しいで す。一般には上映されるものではないけれど、宍戸さんが撮影した膨大な映像の 中から、私がチョイスして、アニマルクラブ版のDVDを製作中です。

 “夢は形を変えても実現できる方法を探す”のが、私のやり方です。我が儘を聞いて、映像をつなげてくれた宍戸さんに感謝しています。今、 私はナレーション部分を作っています。いつか本物の上映会やDVDを観てくださった方々に、私の“裏DVD”、アニマルクラブ版『動物たちの大震災』も観 てもらえたら楽しいだろうなぁーなんて、痛む頭とお腹を擦りながら、夢見ています。

遅れて申し訳ありません。『五井美沙作品集』は10月半ば出版です。
『犬と猫と人間と2 動物たちの大震災』は1月13日東京渋谷で上映会です。

 

平成24年10月1日