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「時を経て堆積する課題」


犯罪者の陰に動物あり

新聞に、被災地では震災後不眠症に悩まされている人が4割もいると載っていましたが、動物達の受難もまだまだ続いています。犬が死んだが、車がな いから火葬に行けないという方に代わって連れて行くのに、石巻市広域クリーンセンターに、動物焼却炉の受付時間の確認の電話をしたら、「亡くなるペットが 増えて、混んでいる」と言われました。

犯罪も増えたそうです。アニマルクラブにも最近続けて2件、市内の弁護士さんから猫の引き取り依頼の電話が来ました。
最初の電話は、他所から来た人が石巻で傷害事件を起こして拘留され、その車の中に猫が2匹居て、1匹はすでに死んでおり、生存している1匹を保護して欲し い、ということでした。私はその人の元から猫を離したいと思い、「引き取りますから、どこに渡したかも話さないことを約束して欲しい」と言いました。以 前、統合失調症の飼い主に「具合が悪くて入院する。もう犬を飼うことはできない」と泣きつかれて引き取ったのに、退院してきたら「返さないなら、殴り込 む」などと不愉快な脅迫を何度も受けた経験もあったからです。

すると、その弁護士さんはたちまちトーンダウンして、「また連絡します」と言われて、話はそこで終わってしまいました。どうやら、飼い主 が出て来るまでの間、面倒をみる人を探していたようでした。「被疑者は精神鑑定の必要もあるかもしれない、死んだ猫は剥製するから片付けないで欲しい、と 言っていた」と聞きました。弁護士だから、動物の命や権利も守ろうとしてアニマルクラブに協力要請してきたのだと思ったのは、私の早合点でした。私達は動 物の幸せのために協力するボランティアであり、無責任な飼い主の所有権を守るために動く便利屋ではありません。“また連絡します”と言った電話が来ないの で、翌日こちらからかけました。「猫をそのままにしておけないからと、保健所に渡してもらった上で、こちらで引き取るなら合法ではないでしょうか?」と頼 みましたが、やはり後で連絡すると言われて、連絡が取れなくなり、その猫のことはそれきりわかりません。

アニマルクラブに来る相談の中で、人間とのコミュニケーションがうまくできない寂しい人に飼われた動物が、その人の気分や考えなしの行動 に翻弄されて命さえ危うくなるというケースはよくあります。言葉を話せない猫や犬は、そういう人達にとって格好の“癒し”になったかと思えば、今度は生き 物ゆえに鳴いたり排泄したり、出産する事が“ストレスの元”だなどと言う身勝手な人達を見ていると、“動物の問題は人の心の問題”だとよくわかります。

 

受け皿の不備

数週間後、別な弁護士さんからまた別の相談がきました。今度の人は、真面目で丁寧でこちらの言い分も聞いてくれる方でした。しかし、私が連絡を受 けた時点で、事件後1週間経過しており、猫は仮設住宅に閉じ込めらたままとのことです。面倒だったのは、市役所と警察と三者立ち会いでなければ鍵を開けら れないと言われ、ドアが開くまでにさらに2日を要したこと。

一刻も早く開けて欲しいと頼みましたが、辺りが暗くなった時刻に、弁護士さんとようやく待ち合わの現場に行くことができました。市役所職 員が「前に開けた時、中から猫の声がした」と言いましたが、餌や水を与えるという機転も働かずに、何の確認もしないでまたドアを閉めたことを恥ずかしいと も、申し訳ないとも感じない人間がざらにいるとしたら、この世は私には太刀打ちできない難題だらけだと感じました。仮設住宅のドアが開けられ、壁際のス イッチで明かりがつけられると、玄関に冷蔵庫が斜めに倒れ込み、中には入れない状態でした。部屋の中もメチャメチャに荒らされ壊され、床一面にガラスの破 片が散らばっていました。部屋に入ったのは私1人です。男性3人は外で待機して、「何かあったら呼んでください」の一声すらありませんでした。私は横倒し になった冷蔵庫に股がり踏み越えて、ザリザリと運動靴の底でガラスの欠片を踏みしめながら、猫を捜索しました。倒れた冷蔵庫からもハムやチーズオードブル のような物がはみ出していたし、流し台の下を覗くと、キャットフードの袋がそのままに置かれていて、猫が何かを食べた形跡がないことが、不安を掻き立てま した。奥の部屋の明かりを点けると、壁にも穴が開き、サッシのガラスも粉々に砕かれていました。

被疑者の罪状もつい今しがた、こちらから聞き出してようやくわかりました。ドアの外で待っ人達は、理由も説明しないで私だけをここに入れ て、猫を探させるつもりだったのでしょうか…。家も身内も失った男性が、酒を飲んで暴れて、駆けつけたパトカーまで壊したそうです。真新しい立派な調度品 もメチャクチャです。何のための義援金だったのか…お金はギャンブルなどで使い果たしたそうです。床に散らかっている物をよけながら、猫の死体が出てくる のではないかとドキドキして捜しました。押し入れの布団に寝た形跡もありません。ふと、ちょうどロッカーのような大きさの家庭用サウナに目が止まりまし た。そっとドアを開けると、ものすごい尿臭が目と鼻を突きましたが、困り果てた顔つきのキジトラの猫と目が合いました。床はオシッコでびしょ濡れで、エサ も水もトイレも敷物も与えられてはいませんでした。用心して洗濯ネットを被せてから、タオルでくるんで抱き上げました。

猫を入れたキャリーバックを持ってドアの外に出た私に、警察官がかけた言葉は「中の物を動かしませんでしたか?」でした。そういう状況下 で、私はよく感じます。「この人も家に帰れば妻子を愛する良いお父さんなのだろうけれど、時間を都合して無給で危険な汚い仕事をしてくれた他人には、自分 の職務の邪魔をされなかったかの確認がまず出るところが、日本人の不器用で不器量なところだなー」と。

帰りの車の中で、私は青年弁護士に、罪を犯して身柄を拘束された人達に飼われていたベットの受け皿の不備を訴えました。数日前には、うつ 病の女性から「自分が可愛くて飼った猫をもう愛せなくて、何かしてしまいそう。市役所にも保健所にも病院の先生にも相談したが、みんなアニマルクラブに頼 んだら…と言う」と電話がきました。高い給料をもらい身分を保証されている人達が口を揃えて、仕事にも戻れず、自宅を提供してささやかな活動を続けている ボランティアに解決してもらえと言っているなんて、情けないことです。こうした人達が、社会から逸脱してしまった人の手からこぼれ落ちたベットの受け皿の 必要性を認識して動くことに、アドバイスと協力をすることが、NPO法人の役割だと思っています。

サウナに居た猫は『ウナ』と名付けました。10日も絶食していたわけだから、消化の良い流動食から始めて様子を見ましたが、経過は良好です。体力が回復したらシャンプーして、ワクチンと去勢手術を受けるつもりですが、性格が良いので助かりました。

 

一個人のパワー

震災後、福島第一原発20キロ圏内に取り残された動物達のために何十回もエサを運び、犬や猫を保護して来てくれた主婦がいます。彼女は今、放浪し ている牛のために奔走しています。どこの団体に属していたわけでもありません。何の後ろ楯もなく、資金もなく、健康被害が生じても誰も補償してはくれな い…それでもずっと続けているのは、「見過ごしにはできないことだった。誰かがやらなければないことだから」と、明るく語ってくれます。

そして、被災猫達が打ち上げられた雄勝の浜でエサを与えてくれているおばちゃんも、こちらの申し出に応えて、猫達を捕獲して不妊手術に連 れて来てくれています。もう5匹終わりましたが、2匹が白血病のキャリアでした。「しゃあないよ、命あるうちは面倒見るから」と言うおばちゃんだって“家 も身内も失った”被災者です。「仮設に1人でいると頭おかしくなりそうだから、猫の面倒見てるんんだよ」と笑っていました。かけがえのないものを失ったか ら自暴自棄になるのも、生き残った命を思いやって未来を見い出そうとするのも、生き方はいかようにも選べます。リーダーシップを取れない国の、名もなき一 市民が心のままに、懸命に動いています。1人の人間が成せることの大きさに感動して、他の人々も続いてくれることを願います。

 

被災動物のユニット誕生

動物たちも存在感を示しています。トップページのコマ漫画を見ていただいていますか?登場するのは、いづれも震災の被災猫達です。すっかり人気者 になった“桃浦から来た親分”『キタ』はじめ、人に媚びるのは天下一品のお調子者の“流れ者の野良猫”『うそじゃ』、飼い主のおばあちゃんも津波被害にあ い、老人ホームに入ってしまった後に家に戻って来たビビり屋『にせお』。そして、津波で亡くなった飼い主さんご夫婦の愛情を一身に受けて“AKB7.2” (Atto Kyouretsu Bigな7.2キロ)になった『ちゃこブー』の日常生活を携帯カメラで撮り、適当なセリフをつけてメールすると、ホーム ページ担当の翔太くんが、うまくアレンジしてくれるので、楽しくてしょうがありません。自分の特性を形にしてくれるセンスを持ち合わせた人とのコラボレー ションは、またどこかへと続いていく可能性を拡げてくれます。

翔太くんは今、被災をくぐり抜けてたくましく生きる猫『キタ』『うそじゃ』『ちゃこブー』と、“世田谷お坊ちゃま犬”になった『心ちゃ ん』を『アニマルクラブの四守護神』として、ダウンロードできる『お守り札』を製作中。乞うご期待ください。そして、それが終わったら、亡くなった仲間、 五井美沙さんの画集作りを手伝ってもらうつもりです。遅くなりましたが、彼女の優しさが伝わる1冊に仕上げて、カンパや物資を送ってくださった方々にお送 りしたいと考えていますので、無記名や住所なしで送ってくださった方は、教えていただけると幸いです。

 

「動物たちの3.11」発売開始

ちょっと遅れていましたが、震災からの活動とこれまでの歩みを振り返り、今後の課題を考えて執筆した本が、エンターブレイン社より23日に発売が決まりました。トップページからも予約・注文できますので、よろしくお願いいたします。

石巻の書店には、震災関連の本が山ほど置かれています。しかし、こうして日々、今起きている問題と向き合っていると、被災はまだ終わって いないことを痛感します。仮設住宅で起きている動物問題や公園などに集まっているはぐれた猫達…半年で活動を閉じた動物救護センターには、今こそ活躍して 欲しかったです。

震災直後から被災地の動物達と人々のドキュメンタリー映画を撮っていた宍戸さんの「動物たちの大震災」も、まだまだ撮影は続いています。 編集できたところまで上映もしています。明日(3月12日)は、仙台市のメディアテークで開催中の映画祭「星空と路-3がつ11にちをわすれないために」 の最後、18時30分から上映されます。今後の上映会に関する情報や問い合わせは、宍戸さん(d_shishido@yahoo.co.jp)まで。

 

一周忌を迎えて

リコとマメコとクララに、お花が届きました。色々あったから、ずっと前のことのようにも思えるし、先週のことのように感じることもあります。最近ようやく、元気で悪戯ばかりしていた頃のリコとマメコの写真を見ることができるようになりました。

昨夜、千葉の『藤田ワンニャン会』の宮田代表と電話で話しました。私は、少女の頃、先代の藤田代表をテレビで見て、想いを行動に移す術を 学びました。宮田さんも、藤田のおばちゃんの生き方に感動して、18歳でワンニャン会に飛び込んで片腕となり、今では年老いたおばちゃんに代わって会を運 営しています。震災後電話が通じた時に、「こちらであった問題が解決した3月10日に、電話しようとしていてかけ兼ねていたから、津波で阿部さん死んでた ら一生後悔するところだった」と言われました。1年後に果たせた電話で、切りがない活動と将来への不安から、新たな引き取りはしないで、現金収入を生み出 す事業を準備中だと聞きました。

今、子猫を引き取ったら20年先まで責任があります。主宰する者も、支援する側もそこを忘れてはなりません。死んでいった命が残した思い出とメッセージも、忘れたくないと思います。